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イエレン議長のスピーチを受けて今後の米国利上げ見通し



要約

  • 年内1回、翌年は2回の利上げ想定
  • 円安転換する状況はまだ先と予想
  • 株式の短期的な見通しはよくとも、利上げ後には下落リスクが大きい

追記

 経済指標の悪さにより9月利上げは見送りとなってしまいましたが、年内1回の利上げ、翌年は2回の利上げを想定するという点は予想的中しました。従って、このページに記載された経済の展望に変化は今のところありません。(2016/9/22現在)

導入

 米国での26日金曜日にFRB議長のイエレン氏がジャクソンホールにて講演をし、利上げに対して前向きな姿勢を見せ、加えてフィッシャー副議長まで9月を含め年内2回の利上げを示唆したことで、9月利上げは確定的になったと思います。12月に2回目の利上げがあるかは不明ですが。実際に為替は1.5円強も円安となり、102円に近付きました。

 昨年の利上げを思い出してみれば、前月には利上げ示唆*1をしてから利上げしていたので、今回も間違えないと思われます。市場では12月が本命だとしていますが、私はそれより9月利上げの方が可能性が高いと考えています。(年内1回あるという点では同意です。)

9月利上げをする理由

 後出しになってしまいましたが、あまり個人的には驚くことではありませんでした。その理由としては以下のものがあります。主に、もはや引き延ばす理由が作れないことに起因しています。

  1. 5月の雇用統計ショックは一時的なものだと6,7月の統計で証明済み
  2. 6月利上げを見送ったのは雇用統計のショックとイギリスの国民投票だった
  3. イギリスのEU離脱決定後も米国経済指標は好調だった
  4. 米国債券市場が低金利であったにも関わらず、米国株式市場が一人歩きを続けていた
  5. 11月に大統領選挙がある

 ちなみに、日本では米国株の好調さばかりが報道されていましたが、米国では債券市場を無視した、株式市場の違和感の報道がいくつかありました。以下が米国株式指数のS&P500と米国債2年物の利回りです。

f:id:eve93:20160828162410p:plain*2

 米国債券市場も株式市場も反応したのは両市場とも強気すぎたことに原因があると思います。通常債券利回りと株式は相関して動くのですが、特にイギリスのEU離脱決定後の株式市場への強気は一段と強いものでした。一方で、債券市場も離脱決定後は低めの利回りであったことがわかると思います。つまり、今回のFRB議長、副議長の発表は両市場に向けた利上げに対する準備要請だったと思います。

 このように次のFOMCまで1カ月弱あるこのタイミングでメッセージを発信しておいたのもまた、9月利上げないし年内利上げの可能性を高める要因です。

9月以降の利上げに関わる問題

目先確定している問題

 目先わかっている問題は以下の2点です。

  1. 11月の米国大統領選挙
  2. イギリスが年内発動予定の50条

 特に、FRBが目先気になるのは11月の大統領選挙のことだと思われます。トランプ氏が明確に金融緩和支持派のスタンス*3を見せていることが怖いところでしょう。実際にトランプ氏が大統領になっても金融政策には影響が薄いでしょうが、市場が反応しうるため相場を荒らされずに利上げできるのは今だけと踏んでいる節もあると思います。また、年末にはイギリスの50条発動(EU離脱宣言)があると思われ、不透明感が強いです。6月の利上げ見送りの際も、イギリスのEU離脱可能性について言及もしていました。この米国選挙とイギリスの50条発動が無事終われば、12月の利上げもあると思いますが、この2点が無事終わる可能性は高いとは思えません。

利上げをすると起こりうる問題

 中国経済の不安がまだまだ続くと思われます。前回の利上げの直後中国を震源地として世界同時株安になったことも記憶に新しいですし、不良債権が急増していることが巷では噂になっています。*4

 利上げをしなくても危うい*5、中国の不良債権の積み増しは利上げによって加速することは間違えないでしょう。タイミングがいつに来るのかはまだ分からないですが、中国の不良債権問題がでつくさない限り、相場は底を打たないと考えています。

 ちなみに米国利上げによる中国への影響は以下のようになります。

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 利上げすると米国債の利回りを求め投資家が、ドルを買うためドル高が発生します。すると、中国に限らず新興国へ投資していた投資のうまみが減ります。なぜなら、例えば1ドル6元の時に100ドル=600元投資していたとします。しかし、それがドル高になってしまい、1ドル8元になってしまいました。すると600元の投資がドルでは75ドルになってしまい、損をしてしまいます。この影響をから逃れるため、中国/新興国の債券や株式に売りが発生し、その結果、中国/新興国の金利、資本コストは上昇し、経済成長が止まってしますのです。

 特に、中国は貿易と財務レバレッジで成長してきたため、資本コストの上昇は経済成長に大打撃となります。また、金利上昇による経済成長の鈍化がわからない方は以下の記事を参照してください。

investall.hatenadiary.jp

利上げの見通しは?

 結局のところ利上げのペースは9月に0.25%、来年も0.5%ではないでしょうか?もし利上げして何も問題が出なければ、多少ペースを速められるとは思いますが、速めても問題が出てくると思われます。いずれにしても、米国経済の強さだけでなく、世界経済も注視している慎重なイエレン議長の下では利上げもなかなかし辛いと思います。つまり、日本人として考えれば結局、一時的な円安があっても相場を円安、株高転換してくれる状況にはまだならないと思われます。

株式市場への影響は?

 日本株(日経平均)は先ほど言った通り、相場転換は不可能で良くて横ばい、概ねベアトレンドという見立ては継続です。米国の株式に関しても、日本同様、長期間にわたる超低金利バリュエーションが上がりっぱなしで、配当や自社株買いで持っていた高値の限界は近いと思われます。実体経済はどちらも強い(日本も弱いというほどではない)のですが、中国とEUの環境が悪いために上昇は見込めないと思います。

おまけ~市場を騒がした図~

 イエレン氏の講演で奇妙なことが起きたのでそれについて書きます。

 実はイエレン氏が利上げに対して前向きな話をした直後、ある図を見せてイエレン氏の利上げに対する姿勢に一部で疑問がわきました。*6私には懐疑的ではなく利上げを確信させるものだと思います。実際に見てどう思われますか?

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*7

 赤線、緑線引いたのは私ですが、とにかく緑線に関しては0.375%で間違えないと思われます。前回の利上げのタイミングと位置的に見て今のFF誘導金利0.25% - 0.5%の中央値をとったものと考えられます。

 また、青線がFRBとプライベートセクターの金利予想の中央値です。これと赤線を比べると2016Q4の段階で、赤線よりも上にあります。この資料作成時期から考えると、ブレグジット前に予想を取ったものであるため強気にはなっていると考えられますが、ブレグジットがなければ年内2回の利上げを予想していたようです。ブレグジットの影響があったにも関わらず、この資料を再度見せるということは、年内1回の利上げは堅いと考えています。

 一方で、下限が再びの利下げを示しており、これが市場で話題になってしまったところですが、6月FOMCの議事録*8と比べると利上げ決定権を持たない民間セクターの予想だということが分かります。

裏番組~黒田総裁の発言~

 黒田総裁もジャクソンホールで発言をしています。*9市場としてはほぼ裏番組状態ですが、マイナス金利拡大余地について言及しています。

 以前から変わらぬ姿勢ですが、総括的検証と言った後でこの発言なので、また日銀会合の付近ではマイナス金利の拡大の憶測が飛び交うことになるかもしれません。実際にどうするかは不明ですが、債券市場を見る限り、利回りが上がっており*10、今のところマイナス金利の拡大はないと考えていそうです。無理に緩和をしなくても米国利上げで円安誘導が行われるとの観測でしょう。

出典

Daily Treasury Yield Curve Rates

Download Data - S&P 500© (SP500) - FRED - St. Louis Fed

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